サッカー日本代表が2034年W杯で勝ち上がるために #1 日本は運を語るレベルに達していない④

サッカー

第四章 ワールドカップは運ゲー

ワールドカップが運ゲーである、という事実を、私は否定するつもりが一切ない。対戦国との相性はもちろんのこと、そもそもサッカーというスポーツ自体に、運の要素が大きく組み込まれている。この章では、今大会のベスト8の顔ぶれと、その先の戦いを具体的に振り返りながら、その運の正体を見ていきたい。

今大会、準々決勝で敗れた4カ国は、モロッコ、ベルギー、ノルウェー、スイスだった。この4カ国、どれも優勝を狙えるだけのポテンシャルを持ったチームだったと、私は思っている。

まずはノルウェーだ。1998年大会以来、実に28年ぶりの本大会出場となったこのチームは、グループステージを2連勝で突破し、決勝トーナメント1回戦ではコートジボワールと対戦した。試合は互角の展開が続いたが、終了間際にハーランドが決勝点を決め、2対1で勝利。続くベスト16では、優勝候補の一角ブラジルと対戦した。0対0のまま試合が動いたのは79分。ハーランドがブラジルの守備陣を完全に振り切ってヘディングで先制すると、90分にはミドルシュートで追加点。後半アディショナルタイムにネイマールがPKで1点を返したが、及ばず、圧倒していたノルウェーは史上初のベスト8進出を決めた。準々決勝の相手はイングランドだった。試合は延長戦にもつれ込み、延長開始直後の93分、途中出場の選手のシュートのこぼれ球にベリンガムが反応して決勝点を奪われ、1対2で敗れた。この試合では、VARによって得点が取り消される場面もあり、ファウル判定を受けたハーランド本人も判定については、あの程度の接触でファウルを取られるなら毎試合ファウルになってしまう、といった趣旨の疑問を口にしている。ブラジルという優勝候補を撃破し、大会屈指のストライカーを擁したチームが、延長戦のわずか数分、ワンプレーの判定で姿を消した。得点王争いでもエムバペ、メッシと並ぶ7得点を記録しながら、その先には進めなかった。

次に、スイス。このチームについては、特に丁寧に扱う必要がある。グループBを一位通過、決勝トーナメントでは、アルジェリアに快勝、その後怪我で主力を失ったにも関わらずグループリーグでポルトガルを圧倒したコロンビアに対して勝利し、72年ぶり、実に1954年の自国開催大会以来となるベスト8進出を果たした。準々決勝の相手は、連覇を狙う王者アルゼンチンだった。試合は前半10分、メッシのコーナーキックからマック・アリスターが頭で合わせてアルゼンチンが先制。だが、スイスは常に主導権を握っており、後半22分、エンドイェが見事なワンツーからゴールを決めて同点に追いついた。ここまでの内容を見ていた人なら誰でもわかるはずだが、この時点でスイスは、王者アルゼンチンを相手に、終始互角以上に渡り合っていた。

ところが、同点に追いついたわずか数分後、試合の流れを決定づける出来事が起きる。後半24分、スイスのエースFWエンボロが、アルゼンチンの選手との接触で倒れた場面で、主審は当初、相手選手にファウルの判定を下した。だが、VARが「対象選手の取り違え」の疑いで介入し、映像を確認した結果、判定は覆り、シミュレーションを行ったとしてエンボロに2枚目のイエローカードが提示され、退場となった。ルールの適用そのものは妥当だった、とスイスの現地メディアも認めている。だが、なぜあの一瞬だけ、これほど厳格な判定が下されたのか、という点について、世界中で議論が巻き起こった。スイスの監督は試合後、この判定によって試合の組み立てそのものを狂わされた、と強く抗議している。

数的不利になったスイスは、それでも90分間、1対1のスコアを守り切った。延長戦に入ってようやく、アルゼンチンに2点を追加され、最終的に1対3で敗れることになる。つまり、10人になってから実に1時間以上にわたって、世界王者候補を相手に守り切り、延長戦で力尽きた、というのが実際の内容だ。誤審か妥当な判定かという議論は今もなお続いているが、11人対11人であれば、この試合がどちらに転んでもおかしくなかったことは、誰の目にも明らかだろう。

3つ目、モロッコ。前回大会でアフリカ勢として初めてベスト4まで勝ち上がった実績を引っさげ、今大会も存在感を示した。グループCでは、優勝候補ブラジルと1対1で引き分け、スコットランドに1対0、ハイチに4対2で勝利してグループを突破。決勝トーナメント1回戦では、無敗の1位通過を果たしていたオランダと対戦し、約70%と圧倒的にボールとゲームを支配し、91分の同点弾で延長戦に持ち込むと、PK戦を制して勝ち上がった。ベスト16では開催国カナダを3対0で下し、2大会連続のベスト8進出。準々決勝の相手は、前回大会の準決勝でモロッコを下した因縁の相手、フランスだった。前半、モロッコはGKブヌを中心に粘り強く守り抜き、エムバペにPKを外させるなど、0対0でハーフタイムを迎えている。しかし後半、エムバペとデンベレに立て続けにゴールを許し、0対2で敗れた。ブラジルと引き分け、オランダとカナダを撃破してきたこのチームが、優勝候補フランスの前についに屈した形だが、その道のりを見れば、優勝を狙えるだけの守備力と勝負強さを、間違いなく持っていたチームだったと言える。

最後に、ベルギー。このチームは、大会前から「黄金世代」の高齢化が指摘され、グループステージでは1勝2分けと、前評判ほどの結果を出せずに首位通過した。だが、決勝トーナメントに入ってから、真価を発揮し始める。1回戦のセネガル戦では、前半に先制されたのち後半にも追加点を奪われ、0対2のビハインドを背負う苦しい展開になった。だが、後半終盤にルカクとティーレマンスが立て続けにゴールを決めて同点に追いつき、延長後半にPKを獲得してこれを沈め、3対2の劇的な逆転勝利を収めた。ベスト16では、開催国アメリカと対戦し、4対1の快勝。準々決勝の相手はスペインだった。試合は2対1でスペインが勝利したが、僅差の試合内容だった。2点ビハインドからの逆転勝利という粘り強さ、開催国相手への圧勝という攻撃力、そして優勝候補スペインとの接戦。このベルギーというチームが、優勝候補の一角であったことに、異論を挟む人は少ないはずだ。

こうして4カ国の道のりを丁寧に見ていくと、共通して言えることがある。どのチームも、優勝候補相手に引けを取らない、あるいはそれ以上の戦いを見せてきた実績を持っていたということだ。ノルウェーはブラジルを撃破し、延長戦の1点差でイングランドに屈した。スイスは、10人になってなお王者候補アルゼンチンと1時間以上互角に渡り合った。モロッコは優勝候補ブラジルと引き分け、無敗のオランダと開催国カナダを撃破した。ベルギーは、大会前の懸念を吹き飛ばすように、開催国アメリカを完膚なきまでに叩きのめした。

この4カ国のうち、誰か1つでも、あの一瞬の判定が違う方向に転んでいたら、あるいは延長戦のワンプレーが違う結果になっていたら、準決勝の顔ぶれは全く違うものになっていた可能性がある。準決勝に進んだフランス、スペイン、イングランド、アルゼンチンが、大会前のFIFAランキングで1位から4位を占めていた国々だったという事実は、確かに順当な結果に見える。だが、その裏にあった無数の紙一重の攻防を見ずに、この結果を実力通り、と単純に片付けることはできない。

最終的に、どれだけ強いチームであっても、大会を勝ち上がれるかどうかは、とんでもない運にかかっている。上位同士の戦いにおいて、勝率はお互いに五分五分、高くてもせいぜい6割程度だとすれば、それを大会最後まで、6試合、7試合と継続し続けるというのは、途方もない運の要素を必要とする。それがスポーツであり、勝負というものだ。確実に結果が決まっているワールドカップなど、存在しない。準決勝に進んだ4カ国、フランス、スペイン、イングランド、アルゼンチンは、いずれも大会前のFIFAランキングで1位から4位までを占めていた国々だった。この事実だけを見れば、今大会は実力通りの結果が出た、順当な大会だった、と言えるかもしれない。だが、その道のりを詳しく見ていくと、まったく順当とは言えない。フランスはモロッコに2対0で勝ったものの、その前の1回戦ではパラグアイの堅い守備に苦しめられ、僅差の勝利しか収められなかった。イングランドは、ノルウェーとの一戦を延長戦の土壇場でようやくものにした。アルゼンチンも、準々決勝でスイスの前に苦戦を強いられている。上位に来る国が結果として上位に来た大会ではあったが、その一戦一戦は、どれも紙一重の戦いだった。 最終的に、どれだけチームとして強くなったとしても、大会を勝ち上がれるかどうかは、とんでもない運にかかっている。これは間違いない事実だ。フランスのような、世界屈指のタレントを揃えたチームでさえ、大会を通じて何試合も戦っていれば、かみ合わない試合が出てくる。準決勝でスペインに0対2で完敗しているのが、その証拠だ。上位同士の対戦において、勝率はお互いに五分五分、高いチームでもせいぜい6割程度だとすれば、それを大会最後まで、6試合、7試合と継続し続けるというのは、途方もない運の要素を必要とする。それがスポーツであり、勝負というものだ。確実に結果が決まっているワールドカップなど、存在しない。

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