第一章 「ブラジルじゃなかったら勝てた」
大会が終わるたびに、同じ言葉を聞く。今回もまた、判で押したように同じ言葉が並んだ。ブラジルじゃなかったら勝てた。くじ運が悪かった。組み合わせに恵まれなかった。ブラジルに1対2で敗れた直後から、SNSにもテレビにも、この手の言葉が溢れ返った。
言わせてもらう。2位通過の分際で、何を言っているのだろうか。
まず、今大会の日本のグループステージを、丁寧に振り返っておきたい。初戦のオランダ戦、日本は2度リードを許しながらも土壇場で追いつき、2対2の引き分けに持ち込んだ。粘り強さは評価すべきだが、勝ち切れなかったことに変わりはない。第2戦のチュニジア戦は4対0の快勝だった。ただし、この相手は初戦で大敗し、試合前に監督を解任するという異例の事態に陥っていたチームだ。そして第3戦のスウェーデン戦。前田大然のゴールで先制しながら、エランガに追いつかれて1対1の引き分け。終盤はスウェーデンの猛攻を受け、GK鈴木彩艶の連続好セーブがなければ、負けていてもおかしくない時間帯すらあった。
この3試合を並べて、胸を張れるだろうか。引き分け、崩壊寸前だったチームへの快勝、そして引き分け。1勝2分、勝ち点5。悪くない数字に見えるかもしれないが、内容を見れば、優勝を語れるチームの戦いぶりではない。
決勝トーナメント1回戦の組み合わせについても、冷静に整理しておく必要がある。48カ国制になり出場枠が広がったとはいえ、対戦相手はあくまでグループの成績に基づいて決まる。1位で通過すれば、原則としてもう一方のグループの2位や3位通過国と当たる。2位で通過すれば、もう一方のグループの1位通過国とぶつかる。日本が2位通過だったからこそ、グループCを2勝1分で首位通過した優勝候補ブラジルと当たった。これは運でもくじでもない。順当な結果に過ぎない。日本が首位で通過していれば、対戦相手はモロッコになっていた。
本当に運が悪かったと言っていいのは、日本ではない。グループFを無敗の1位で突破したオランダの方だ。オランダは1位通過という、本来なら報われるべき結果を出しながら、それでもモロッコという難敵と対戦することになった。モロッコは前回大会でアフリカ勢として初めてベスト4まで勝ち上がった実力国であり、当時のFIFAランキングでもオランダとほぼ並ぶ7位につけていた強豪だ。試合はガクポの先制点をオランダが守り切るかと思われたが、後半アディショナルタイムに追いつかれ、延長でも決着がつかず、最後はPK戦の末にオランダが敗れた。1位通過という最善の結果を出しても、報われなかったのだ。運が悪いと言う資格があるとすれば、それはオランダの方であって、2位通過で優勝候補と当たった日本ではない。
今大会の日本代表を一言で評価するなら、私はこう言いたい。「スウェーデンと引き分けた国」だと。
これは皮肉でも何でもなく、素直な評価だ。グループステージ最終戦、日本はスウェーデンと対戦し、先制しながら勝ち切れずに引き分けた。もちろん、勝ち点を落とさず決勝トーナメント進出を決めたという意味では悪い結果ではない。だが、優勝を語る資格という観点で見るなら、この結果は致命的だ。優勝を目指すチームが、格上でも何でもない相手に、リードしていたにもかかわらず追いつかれているようでは、話にならない。オランダとの引き分け、崩壊寸前だったチュニジアからの勝利、そしてスウェーデンとの引き分け。この3試合の結果を並べただけで、今大会の日本の立ち位置は見えてくる。単純な比較はできないが、スウェーデンは欧州予選でスイス、コソボ、スロベニアと同グループで0勝2分4敗。ランク的にも格下。決勝トーナメントの先を見据えるなら勝たないと話にならない相手なのである。
誤解のないように言っておくと、私は日本がベスト32で勝てる国がほとんどない、などと言いたいわけではない。むしろ逆だ。48カ国に出場枠が広がった今、決勝トーナメント1回戦の相手で日本が絶対に勝てない、と言い切れる国はほとんど存在しない。だが同時に、日本が絶対に勝てる、と言い切れる国もほとんど存在しない。この話は次の章で詳しくやる。ここで言いたいのは、そういう五分五分の力関係にある国と対戦して、結果が出なかったときに、運のせいにしていい立場に日本はまだいない、ということだ。
思い出してほしい。前回、2022年の大会で、日本は世界中から注目を浴びた。ドイツに勝ち、スペインに勝ち、グループを首位で突破した。あの結果があったからこそ、日本はダークホースと呼ばれ、世界中のメディアが日本の戦いぶりを取り上げた。だが、それを言っていいのは前回大会だけだ。今大会も同じように注目されている、印象を残せている、と思っているなら、それは勘違いだ。
今大会の結果を、もう一度冷静に並べてみよう。オランダに引き分け、後半には既に自壊状態だったチュニジアに勝ち、格下と言ってもいいスウェーデンに勝ちきれず、そして優勝候補ブラジルに完敗して姿を消した。そのブラジルはといえば、続くベスト16でノルウェーと対戦し、後半にハーランドに立て続けに2ゴールを許し、終了間際にネイマールがPKで1点を返したものの、1対2で敗れている。点差以上の差があった。優勝候補と呼ばれた国が、そのあとの一戦であっさり姿を消す。この試合を観たらわかる通り、1位通過国の中でブラジルと当たったことが、むしろ幸運とすら言えるくらいの巡り合わせだったのだ。それでも勝てなかった。
前回大会、日本が世界の注目を集めたのは、ドイツとスペインという看板国を撃破したという、誰の目にも明らかな実績があったからだ。今大会、日本が挙げた結果は、引き分け、辛勝、引き分け、そして完敗である。この結果を見て、世界がいつまでも日本の戦いぶりに注目してくれると思わない方がいい。
ブラジルじゃなかったら勝てた、という言葉の裏には、日本がもっと上のレベルにいるはずだ、という前提がある。だが、その前提そのものが、今大会の結果によって、静かに否定されている。運が悪かったのではない。まだ、運を語れるところまで、たどり着いていないだけだ。

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