サッカー日本代表が2034年W杯で勝ち上がるために #1 日本は運を語るレベルに達していない⑤

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第五章 日本は運を語るレベルに達していない

ここまで4つの章を通して、私はある一貫した主張をしてきた。今大会の日本の戦いぶりは、運が悪かったから結果が出なかったのではなく、まだ運を語れる段階に達していないだけだ、という主張だ。最後にこの章で、その論点を一つにまとめておきたい。

第一章で見た通り、日本はグループステージを2位で通過した。2位通過だったからこそ、優勝候補ブラジルと当たった。これは組み合わせの巡り合わせに過ぎず、運が悪かったと嘆く筋合いのものではない。本当に運が悪かったのは、無敗の1位で通過しながら、前回大会4強のモロッコと当たり、PK戦の末に散ったオランダの方だった。そして日本が敗れたブラジルは、その後ノルウェーにベスト16で敗れている。1位通過国の中でブラジルと当たったことは、むしろ幸運と呼べるくらいの巡り合わせだった。それでも勝てなかった。この事実は重い。

第二章では、日本に絶対に勝てない国はほとんど存在しない一方で、絶対に勝てる国もほとんど存在しない、という日本の立ち位置を確認した。三笘薫という、1人で試合を変えられる選手を欠いてなお、世界のほとんどの国と渡り合える力を、日本は持っている。これは間違いなく誇っていい実力だ。だが、ここで一つ、はっきりさせておかなければならないことがある。勝つ可能性がある、ということと、優勝できる、ということの間には、途方もない距離がある。そしてその距離の正体こそが、この章で私が最も伝えたいことだ。

第三章では、日本代表というチームの評価と、日本人という個々の選手の評価に、明確な差があることを見た。チームは世界ランキング18位という、実績相応、あるいは実績以上の評価をすでに受けている。過小評価どころか、過大評価とすら言える。一方で、欧州5大リーグに26人もの選手を送り込みながら、個々の選手の価値は、いまだ正当に評価されていない。この差を埋めるのは、次の4年間で、選手一人ひとりが所属クラブで挙げる結果でしかない。

第四章では、準々決勝で敗れたノルウェー、スイス、モロッコ、ベルギーの戦いぶりを、予選から丁寧に振り返った。この4カ国は、いずれも優勝候補と呼ぶにふさわしい戦いを見せながら、延長戦のワンプレー、あるいは物議を醸す一つの判定によって、大会を去っていった。ワールドカップは、間違いなく運ゲーだ。それは疑いようのない事実だ。

だが、ここで冷静に考えてほしいことがある。運について語る資格があるのは、どういうチームなのか、ということだ。

ノルウェーは、ブラジルという優勝候補を、正面から撃破した上で敗れた。スイスは、数的不利になってなお、王者候補アルゼンチンと1時間以上互角に渡り合った上で敗れた。モロッコは、優勝候補ブラジルと引き分け、無敗のオランダと開催国カナダを撃破した上で敗れた。ベルギーは、開催国アメリカを完膚なきまでに叩きのめした上で、僅差でスペインに敗れた。この4カ国はどれも、ベスト16に残った国々を相手に、五分五分以上の戦いができることを、大会を通じて実際に証明してきたチームだ。だからこそ、この4カ国が運について語るなら、それは十分に説得力を持つ。実力で対等に渡り合った末に、最後の一押しで運に見放された、と言えるからだ。

では、日本はどうだったか。今大会のベスト16に残った国々を、一つひとつ思い浮かべてみてほしい。アルゼンチン、スペイン、フランス、イングランド、ポルトガル、ブラジル、モロッコ、オランダ、ノルウェー、ドイツ、ベルギー、スイス。この中に、日本が五分五分以上で渡り合える、と胸を張って言える相手が、一つでもあっただろうか。私には、一つも見当たらなかった。日本が対戦したブラジルにしても、日本は先制点を奪い、際どい試合を演じはしたが、内容で互角以上だったとまでは言い切れない。グループステージでは、格上でも何でもないスウェーデンに引き分け、崩壊寸前だったチュニジアにようやく快勝したに過ぎない。

つまり、ここが核心なのだ。ワールドカップで本当に優勝を目指すのであれば、ベスト16、あるいはベスト8に名を連ねるような、どの国が相手であっても、五分五分以上の戦いができなければならない。今大会のノルウェーやスイスがそうであったように。だが、今の日本は、そこにまだ到達していない。勝てる可能性がある相手と、五分五分で渡り合える相手の間には、明確な線がある。日本は前者ではあっても、後者ではまだない。

運について語れるのは、その五分五分の土俵に、すでに立っているチームだけだ。土俵に上がってすらいないのに、土俵の上で起きた不運を嘆くことはできない。日本が今大会掲げた結果、引き分け、辛勝、引き分け、そして完敗を見る限り、日本はまだその土俵に上がれていない。運が悪かったのではない。まだ、運を語れる場所に、辿り着いていないだけなのだ。

この原稿を書いている時点で、決勝はまだ行われていない。だが、決勝に進んだのがスペインとアルゼンチンという、大会前のランキング上位2カ国だったという事実は、非常に示唆的だ。この2カ国は、グループステージから決勝まで、際どい試合を演じながらも、どの相手に対しても五分五分以上の力を発揮し続け、最後まで崩れることなく勝ち上がってきた。運の要素が大きいこの大会において、それでも最後まで勝ち残るチームには、運だけでは説明のつかない、圧倒的な地力の高さがある。日本が本当に目指すべきは、この地力だ。格下には確実に勝ち、優勝候補が相手でも五分五分で渡り合え、その上でなお勝ち続けられる。この段階に到達して初めて、日本は運について語る資格を得る。

運が悪かった、くじ運がなかった、ブラジルじゃなかったら勝てた。そう言いたくなる気持ちは、私にも分かる。負けた直後は、誰だって何かのせいにしたくなる。だが、その言い訳を口にする前に、今大会の自分たちの戦いぶりを、もう一度冷静に振り返ってほしい。ベスト16に並んだ国々の誰と対戦しても、五分五分の自信を持てなかったという現実を。

私は、日本代表に勝ってほしいと思っている。それは、この本の冒頭で言った通りだ。だからこそ、耳障りのいい言葉で慰めるのではなく、厳しい現実を、はっきりと突きつけたかった。日本は、まだ運を語るレベルに達していない。だが、それは絶望する理由ではない。今大会、勝つ可能性がある、というところまで来た事実は、次の4年間で、その可能性を、確実な五分五分の実力に変えていくための、確かな土台になる。

2034年、日本が本当の意味で世界の頂点を争う場所に立つために。この本で見てきた4つの視点、組み合わせの正しい理解、実力の正確な自覚、個の評価を高める必要性、そして運という要素の正体。この4つを胸に刻んで、次の大会へ向かっていってほしい。

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